テンション・ノート(仮)


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背の高い人

1993年

 彼と背の高い人が出会ったのは、彼が登ることが少し嫌になってきた頃でした。彼はチビで体力も弱いので登るのが遅く、いっしょに登りはじめた人たちはもうだいぶ先まで行ってしまいました。後からくる人たちも彼を追い抜いていきました。たまに彼は地面に咲いている小さな花や石ころのことをその時近くにいる人に話しますが、皆、彼より背が高いので空や頂上や木々に夢中で彼が話し終わらないうちに先に行ってしまいます。そして彼は登るより座りこんでそこにある花や石ころを見つめていた方がずっと楽しいだろうと思うようになったのです。それでも彼はそんなことはできずにほとんど壊れたロボットのように足を動かし続けていました。
 そんな時、彼に声をかけてくる人がいたのです。その人は彼が今まで見た中で一番、背の高い人に見えました。彼が花や石ころの話をすると背の高い人は本当にうれしそうでした。彼もうれしくて一生懸命話したのです。
 そのうち背の高い人に登るペースを合わせていた彼の息が切れはじめました。彼はまたひとりになってしまうのが嫌で何とか背の高い人について行こうとしました。しかし、背の高い人にとっては何でもない凸凹が彼にとっては山やガケのようです。背の高い人はふりかえらずに行ってしまいました。そして彼はとうとうその場に座りこんでしまったのです。あんなに好きだった花や石ころもその時の彼にとって何の意味も持ちませ     在 を     無 へ   す   の高い人が話してくれた花を見つけ、彼はその花の美しさに気づきました。そして3日ぶりにまた登ってみようかと思いはじめたのです。