テンション・ノート(仮)


myagishita > テンション・ノート(仮) > 新版「アリとキリギリス」


新版「アリとキリギリス」

2017年12月13日

 あるところに、一見、誇りと志高く慎ましく振る舞いながら、心の底で餌の分け前の少ないことに不満を持つ者が多いアリたちが暮らしていました。勤勉で地道であることが信条のアリたちは「インターネットやスマートフォンなんていう非道徳的なもので楽をして不正に暮らす私利私欲にまみれたろくでもないお調子者のキリギリスたちは冬になれば自滅する」と思っていました。
 しかし、どこか半信半疑で気に食わないながら気候の変化に敏感なキリギリスの助けが必要だと思った数匹が、女王アリや他のアリたちには内緒で、ある弱った障がいを負ったキリギリスに「とても少ない餌をあげる代わりに」と、助けを求めました。それに快く応じたそのキリギリスを、いきさつを知らない他の多くのアリたちは「そんなに少ない餌で働くなんてよっぽど行き場のないだらしがなくすがりついてきた困ったお調子者のキリギリス」としか見ませんでした。
 ところが、そのキリギリスは実は、気候の変化を敏感に察知してアリたち以上に勤勉で地道な努力を惜しまない暮らしをしてきていたのでした。一緒に暮らしてみると、そのキリギリスはアリたち以上に巣作りも餌集めも子育ても素早く上手にこなすことができた上、気候の変化に合わせて働くことができたのです。その様子は、あまりにも簡単そうに見えるので最初はどのアリもそのキリギリスを相手にしませんでした。しかし、自分たちの方がうまくできると思ったアリたちが代わってやってみると、どのアリが挑戦しても同じようにはできず、内緒で助けを求めた数匹のアリたちの想像をはるかに超えるほどで、そのキリギリスがとても少ない餌でそんなに働けるのは何かズルくて悪い不正なことをしているからなのではないか?と見当違いの疑いをかける始末でした。当のそのキリギリス自身も、アリたちの根拠なしに心無く自分を蔑んでくる振る舞いと、噂に聞いていたのとはかけ離れた彼らのケチな働き方のギャップに驚かさざるをえませんでした。
 そのキリギリスが彼らアリたちの厳しい暮らしに馴染めずじきに逃げ出すものと高をくくっていた助けを求めた数匹のアリたちは、弱っていることをいいことにとても少ない餌しか渡さずにたくさんの大変な仕事を手伝わせていることを知った女王アリや他のアリたちに叱られて立場を悪くしました。一方で最初にそのキリギリスに助けを求めたアリは、その弱ったキリギリスがとても少ない餌で苦しみながら懸命に堪え忍んで働く様子を、心の中で密かに鬱憤を晴らすように意地の悪い気持ちで眺めながら愉しく堪能していました。
 頑固に気候の変化を受け入れなかった傲慢なアリたちは、お調子者であるはずの彼らの敵であるそんなキリギリスを受け入れ難かったのですが、いつの間にか自分たちが先入観で侮蔑したその弱ったキリギリスに集団で負ぶさるしかありませんでした。その様子はもはや、どちらかと言うとアリたちの方が「非道徳的で不正で楽をすることしか考えていない私利私欲にまみれたろくでもないお調子者」にしか見えないのでした。
 弱っていたキリギリスは自分たちが思うよりはるかに肥ったアリたちを背負いながら懸命に働きましたが、その重さに耐えられずに倒れて仕方なくアリたちと別れることにしました。そのことを知った最初にそのキリギリスに助けを求めたアリは、気候の変化に敏感で自分たち以上に働くそのキリギリスが居なくなると自分たちアリの暮らしがままならなくなるし、まして自分が女王アリや他のアリたちに叱られると思い、弱りきったその障がいを負ったキリギリスをドスの効いた低い声で脅しました。しかし、女王アリの次に偉いアリにたしなめられて、出て行くと言うそのキリギリスを引き止めることをあきらめました。
 そのキリギリスは、自分の働きで思いがけずたくさんの餌が集まったことと、そのことをアリたちが必死で隠していること、ほんの少しだけ餌の分け前を増やしてもらえることに気づいていましたが、アリたちの巣を出る最後の瞬間まで、自分がアリたちに求められていることに気づいておらずに自分の力を自覚していないフリをしてお人好しに振る舞うことを忘れませんでした。おしまい