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「徐冷」について〜「非日常」から「日常」へ

2018年9月29日

 「徐冷」と聞いて何のことか?がわかる方はとても少ないと思います。
 簡単に書きますと、「徐冷」とはガラスを加工しやすくするために高温に熱してやわらかくしたものを、加工を終えて常温に戻すときに必要な工程のことです。金属などとは異なり、ガラスは温度による体積の変化(膨張係数)が大きいため、急に冷やすと「歪み」が生まれて割れてしまいます。この「歪み」が生まれないよう窯の中で時間をかけて少しずつ常温に戻していく工程のことが「徐冷」と呼ばれています。
 多くの観光地には「吹きガラス」の体験ができる工房があります。3,000円くらいでスタッフに手伝ってもらいながらグラスなどをつくる体験ができます。たいていの場合、作ったグラスをその場では持ち帰ることができず、後日に宅配などで自宅で受け取ることになると思います。なぜなら「徐冷」という一晩くらい時間がかかる工程が必要だからです。
 ガラスを素材にモノづくりをしている人にとっては当たり前のことなので、必要な「作業」や「工程」としてあるだけで特に気にかけることはないのかもしれません。日々、時間に追われて製品なり作品なりを仕上げなければならないそういう立場の人にとっては、むしろ時間の効率から考えるとできれば省略してしまいたい、ある意味で「必要悪」ですらある工程なのかもしれません。
 しかし、私にとって「徐冷」は非常に興味深いことで「特別な意味」のようなものを感じています。私は母校での「ガラス材料学」(と記憶している)という講義でこういったガラスの興味深い性質を知り、ずいぶん考えさせられました。「非日常」の高温から「日常」の常温へと戻すという、大げさに言えば「哲学的な儀式」のような「意味」を感じてしまいました。つまり(ここはちょっと飛躍するのですが)、「体温がある」ということは「日常」ではなく「非日常」ということなのです。そういう拙い思索(?)は結果としてこの作品につながっていきました。
 言ってしまえば私は、ガラス工芸の第一線で活躍されている先生方の講評などよりよっぽど、「申し訳程度に行われた退屈な講義」に影響を受けてしまったのです。